018.The Queen The Fear(tuned:1)/Born To Be Free!





 秋に変わり始めた、高い青空の下、
真ッ平らにならされた盾の騎士団付属学園の屋外演習場を、都市迷彩のグレーの塗装の装甲で澄んだ空気を濁して
コモン・アーマーシビリアー三騎が整列して闊歩する。

 シビリアーの姿はといえば、鍋をひっくり返した様な頭部が、
胸の上に直接乗り、全体は直線的なシルエットで構成されている為、少々角ばった印象がある。
シビリアーのシルエットには、どこかグラデスに通じるものがあるようにも見えるが、
胸や肩の装甲はグラデスと違い薄くなっているものの、胸部は薄い割りに広い。
手足と比較すると、
そのアンバランスな平板のような胸部の広さが目立つが、コクピットハッチは胸部中央である点も共通している。
グラデスは鎧を連想させる力強さはあるにはあるのだが、シビリアーはどちらかと言うとアンバランスさが目立ち
その、バランスの不安定さが見ているものに不安な気分と言うのを抱かせるというのも、否めないだろう。

 級友と思しき生徒達は、演習場が見渡せるようぐるりと演習場外周の柵に沿って、演習場上部に設置された足場から
シビリアーの動きを観察している。
屋外演習場の脇の方には、今現在稼動しているシビリアーの予備か、
二機のシビリアーが動きを止め、胸のコクピットハッチを開放した無人の状態で座しているのが認められる。

 それぞれ手には黒く光るシビリアー用のサブマシンガンと、
機体と同じグレーに塗装された盾を持ったシビリアー達は。 歩行から、陣形を組み、背中を合わせて──
まず、先頭のシビリアーが片膝をつき、続く二騎が左右と
それぞれ異なる方向の的に盾とサブマシンガンを構える動きに移行するシビリアーの動きは、どこかぎこちない。

 「駄目駄目、武器…銃剣と盾に出力を回し過ぎたら、
動きが鈍くなって歩くこともできなくなる!
シビリアーはジェネレータの制限が厳しいんだから、出力の配分に気を配る!」

 僚機の動きの貧しさに苛立ったのか、先頭のシビリアーを駆るリーダーと思しき黒い髪の少年が、
コクピットの中でチーム員達に、きつい声色で注意を飛ばす。

 「重装シビリアーは、武器を構えるときは脚の動きを完全に止めてからを徹底。
動かしながらだと、配分がうまくないとシビリアーの出力だとのろのろ構えることになる。
この重装タイプだと一層タイトだから、今まで以上に気を配るんだ」

 運転周りにうるさい少年の通信に、ねぇ、と呼ばわる少女の声が割り込んだ。

 どこだ?と、黒い髪の少年は長めの髪の毛を揺らして辺りを見回す。
連動して、彼の乗るシビリアーの鍋のをひっくり返したような扁平な頭も周囲をきょろきょろと見回した。

 シビリアーの動きに巻き込まれない程度には
離れたところで両手をあげて左右に振って信号を送る防護服姿の少女の
ブラウンの髪の毛の色を認めた少年は、
シビリアーの上体を旋回させて
(シビリアーの腹部は回胴式になっており、前後に動かないが横に対しては制限無く回転する)を
そちらに向けて、肘を曲げさせて、銃剣を取り付けたサブマシンガンを上方に向ける。

 「リサ、どうだって?」

 ブラウンの髪の毛を二つの束に分けて束ねた彼女
──リサと呼ばれた防護服姿の少女は、遠くからでも良く見えるようにか、首を大きく振って
少年の質問の結果を教える。

 「リブラ、駄目だった。携帯魔装切ってるし、ちょっと見つからないよ。
学園といっても相当広いし、正直あてもないのに探してられない」

 リサからの通信に、神経質そうな少年は溜息を吐いてそうか、と答えて、思わず愚痴を吐く。

 「あいつ──ザノン、ここのところいつもいつも実機の授業を雲隠れして。
なんで自分の班の評価を下げて平気なんだ、あいつ」

 「知らないよ。本人に聞いたらいいじゃない」

 「──委員長の事もあるから、言い辛い、ってのはあるな」

 また、長いため息を吐いて、リブラと呼ばれた少年はシートの背もたれにもたれかかって、掌を合わせて、指を組むと
リブラの言葉に、リサはザノンへの怒りの心情をちらりと声に滲ませて言葉を返す。

 「そりゃそうだけど…一ヶ月経つんだよ?
怪我なんて、集中治療魔法ですぐに治ってるんだし、
いつまでも何もしないで…
言い方悪いけど、甘えていていいわけじゃないでしょ?
文句を言わないから、つけあがるんじゃないかな」

 リサと呼ばれた少女は腰に片手を当ててから、あきれた様に一つ肩を竦めると、向きを変えて
脇で停止している自分のシビリアーに向かって歩き出す。
暗い紺の防護服が、リブラの視界から段々と遠ざかっていく。

 「ザノンに同情ってわけじゃないけど、俺達の事情だってあるのは無視できないわけだしな──
死んでる奴のために生きてるんじゃないんなら、感情は、律しないといけない」

 組んだ指の、親指を交互に上下組み替えてから、
リブラは、後方のシビリアーに
ハンドサインで合図を送る挙動を見せて、自分のシビリアーの上体を回して、
再び視線を正面の的に戻した。



 屋上で、床に上着を敷いたその上に、
上部スライドカバーを引き抜かれたオートマチックピストルが置かれている。
その周りに置かれている部品は、その銃から引き抜かれたと思しきスライドカバーと、
スプリング・ガイド、それに弾倉が置かれている。
上着と銃の主、ザノンは手元に視線を落とし、銃のバレルを棒状の細いブラシでごしごしと磨いていた。

 背後から少女らしき影がザノンに近づき、ザノンの背中に影が被さる。

 「拳銃なんか、ルサンチマン相手にしたときには、役にたたないでしょう?」

 背後から声を掛けられても、ザノンはバレルを磨く手を止めない。

 「どうだろうね。使うにしても、北連のモンキーコピーだから、まめに掃除しないと怖いんだ」

 「どうせ使うなら、ナイトガルドの国産品使えばいいのに」

 グリーンの制服のスカートの裾を抑えて、長い金髪と、
とても珍しいルビーの様に赤い瞳を持つ少女はザノンの左横に脚を伸ばして腰を下ろす。

 「国産品は、粗悪品も多いんだ。
──旋盤を使う、精度が重要な器械は
北連のものの方がいいと思うんだ。…モンキーコピーだとしてもね」

 ふぅん、と相槌を打って、
ネルは赤い目をちょっと動かしてザノンを横目でちらと見てから、ぷいとあさっての方を向く。

 「はいはい、個人で輸入品の拳銃なんて買えるのはお坊ちゃんくらいですよー…と」

 「ネル・アスタ・パムカは、僕になにか御用だった?」

 今度は、ザノンが首を動かして、ネルの方をちらと見る。

 「用があるから屋上に来るんじゃないよ、
私の居場所に最近ザノン君が居座るようになったんじゃない」

 つまらなさそうにぼやくネルの言葉に、肩を竦めるとザノンは手元のバレルに視線を戻した。
実際、此処最近、二人は授業の時間帯に自分達の教室棟の屋上で顔を合わせる事が少なくない。

 「今、組み立て終わらせたら出て行くよ」

 ネルは、一人の時間を求めてきたのだろうとザノンは考えを巡らせたのか、そう告げるが
ネルの方は眼を細めて、ふうん、と小さく言う。
自分の事で構ってくれるなとでもいいたげな表情である。

 「出て行けとも言ってないけどなぁ…」

 ネルが退屈そうにベルトの付いた黒いパンプスの爪先をぱたぱたと左右に動かす。

 「ネルは、授業に出なくなったのはどうして?」

 ザノンとネルは同じパイロット候補に割り振られたクラスの、同級生同士である。
 この時間にパンプスを履いてくる時点で、ネルは今日もはなから実機操縦の授業に出る気がないなと悟ったザノンは、
間を持たせる為か右手を伸ばして、ブラシを置くと入れ替わりに銃を掴みつつ、ネルに質問を投げかける。

 「そういう君は?」

 ネルの質問にザノンは一瞬考えを巡らせるが、
気分的に、彼女に一ヶ月前の戦闘の事を言うのも違うと思えて「よく判らない」
とネルに答えた。
まだ、自分の中でも整理が付いていないのかもしれないと彼は同時に考える。

 「委員長の事だけじゃないよね」

 スプリングガイドをはめ込み、スライドカバーを銃本体に
被せる手を止めたザノンは、また一瞬考えて、スライドカバーを銃にスライドさせてはめ込んだ。

 ネルからしてみれば、その──隠された原因、見えていない原因にはほんの少し興味があった。
自分と同じように授業をサボタージュするようになってしまった神童が、
どんな挫折を抱えているというのか、それはちょっと考えてもすぐに判りそうな事ではないし、もしかしたらお互いに
実になる部分というのがあるかも知れない。

 彼女はそんな事を漠然と考えて、軽く首を傾げて、
ザノンの長めの前髪の奥を覗き込むように赤い眼を大きく見開いてみる。

 「──例えばさ」

 うん、とネルが頷いて声を上げたザノンへ話の続きを促す。

 「学校でちゃんと授業を受けて、騎士になったとして」

 ザノンは、クロウスが逮捕されたあの日から模索している、
あの時のクロウスの心境を、仮定の為に自分と重ね合わせていた。
ナイトガルドに害なしたといわれる重犯罪者が、その理由を正しく言わなかった事について。

 銃を持ったままのザノンの手が、胸の前を泳いでいる事に気づいて、ザノンはマガジンをはめ込んでいないピストルを
右目を瞑って、右手で軽く構えてみる。
ドットサイトが、ミニチュアの様に小さく見える石造りの塔を捉える。

 「仮に、僕がその技能を使ってナイトガルドに楯突くような事になる事が起こったとするよ」

 騎士の手本の一人として尊敬していた人間でさえ、そんな事件を起こしてしまう位世の中というのは、判らない。

そして、自分の未来にもそうせざるを得ない状況になってしまう可能性というのは、
もしかしたら世の中にはあるのかもしれない。
ザノンは少なくとも、そう思う。

 もし、自分がクロウスと同じ状況に置かれていたとしたら、自分はどういう道を選び取るのだろうか。
そして、それは正しいことなのか、間違ったことなのか。

 「そうしたら、僕は、知ってる人とも戦わないといけないのかな」

 クロウスの一件だけではない。世界の真実に辿り着きたいとはザノンは思う。

 しかし、世界の真実に辿り着いたとき、自分を知る人と刃を交える事があるのだろうかと
ザノンは心の奥底でクロウスの一件の推理を続けることに対して、恐れのようなものを抱いていた。

 「そうだろうね」

 物騒な事を聞くな、とネルは胸中に驚くが、彼の懊悩の一端を見て、
間髪を入れずに答え、覗き込んだザノンの眼の奥に未来への恐れがある事を感じ取り
ザノンの眼からは視線を切って、彼の拳銃の銃口の捉えた空を見上げると言葉を続ける。
 「クロウス・アーメイっていう騎士が逮捕されたっていう話、知ってるよね?
女王陛下に直接武器で殴りかかったのなんて、最近ではその人くらいだし。 アーメイ家は何人居たって言うかな…とにかく、血縁にあるもの全員だから、十五人とか、二十人とかだったと思う」

 戦場で、自分達が接触したといううわさを知ってか知らずか、
その名を挙げたネルの言葉にザノンは内心どきりとしつつも、うん、と相槌を打つ。

 「叛逆の見本として、最近の判りやすい例だから挙げるんだけど、逮捕の原因となる事件を起こした時に、
家系を絶つ為にクロウス卿の家族はみんな逮捕されて処刑されたんだけど
その処刑って言うのも凄くてね」

 どういう始末であるかは、ザノンも知っている。
ザノンはこくりと喉を鳴らして唾を飲んだ。

 「治療を施しながら、生きたまま四肢を切断していくわけ。
切り落としたら服を着せないで、街中に晒すの。
見張りは、そのまま、死ぬ様な事をされない限り干渉しないで、餓死するまで放っておく。
…死んだら、今度は切り取った四肢と一緒に街のはずれに暫く放置されるのね。
此ナルハ大逆非道ノ者、の看板だけ立ててね。
逮捕された本人には自殺は許されないで、毎週、説教の時間にその事を言われるの。
お前のお父さんは何を言われた、妹はどうだったって。死ぬまでの様子を事細かに。
一番重い重犯罪は、そういう風に罰しなさいって、法律で決まってるの。」



 ザノンは、あの日のクロウスの貌を思い出した。
暗闇を纏う貌。
恐らく、もう、一生、その暗闇は晴れる事はないのだろう。

影を飲み込み、影の持つ毒の廻りきった悲しい顔。

だが、しかし。

 その罪と罰とを覚悟してまで、女王の盾を突き、
そして、生きながらえて、逃げ続けながらも、
どうしてそれを為さねばならなかったのか。

 ──何の為に?──

 ザノンの思考は渦を巻き、彼は銃を下ろして顔を伏せる。

 「私は思うんだけど」

 思考の迷宮を迷うザノンは、ネルの言葉に黙って頷いた。

 「そんな酷い事になるのを判ってやってるなら、それはその人の意識の中では、
まず、絶対に正しい事なんだよね」

 そうか、とザノンは思考の壁が展開を始め、新しい視界を見せた様に感じた。

 クロウスは、確かに何かを確信していた、とザノンには思えた。
あの時、捕まる身でありながら、堂々としていた彼の表情には、
仕方ないからやった、と言った諦念は無かったし、
法を侵したことについて、罪悪感というものを感じているとさえ思えなかった。

 ──罪も罰も、勝手に決めたらいい。
自分は、それを含めて踏破してやろう──

 ハッとザノンは顔を起こす。

 クロウスの貌がそこに浮かび、エクスの声が聞こえてくるような錯覚をザノンは覚える。

 「それで、社会にとっての正しい事じゃなくて、
自分ひとりにとって正しい事をするなら、どんな事でも起こるよ、多分ね。
自分の気持ちを我慢しないで、何でもしますよって事でしょう。
自分の気持ちに対して正直に行動しすぎると、迷惑する人は怒るし、その人の事叩くよ。

…だから、
そういう道を、何かの理由で選び取ったなら
知ってる人だけじゃなくて、誰しもが敵になる可能性がある…
戦わなきゃいけなくなる。

ザノン君はなにかの弾みで、
そうなってしまうっていうのが怖いから、授業に出て、そういう未来を想像するのを避けてるって事かな?」

 「そうだね、クロウス卿の事件で、色々考えてたっていうのも、あるかな」

 ネルから、論理的な意見を得てザノンは少しだけ考え続ける勇気を得た。
 クロウスには、どんな事になっても、その行為を為そうとする彼自身の確信があったのだ、と。

 彼の道の果てに柄みたいものがあった筈で、それは邪悪なものではない筈だとザノンは感じる。
無論それが自分にとっても正しいことであるのか、それとも否定すべき事であるのかは判らない。

 ただ、クロウスは自分の生の中で、何かの信念を貫こうとして、ああなったのだと感じる。
どんな理由があろうと家族まで殺してしまうような行動は共感できない。
しかし、まだ明らかになっていない、信念そのものにはもしかしたら共感できる部分があるかもしれないし
信念を貫こうとする姿勢は、尊敬できるものであるとも。

 だから、考えよう。
クロウス卿の言葉にしない真実、それを知る事自体は、きっと、僕にとっても正しいことであるはずだ。

 ザノンはそう決心を新たにすると、銃にマガジンを差し込んで立ち上がろうとする。

 「私はね、そういうの、嫌だな。
皆一人で生きてるわけじゃないからね」

 ネルは聊か不穏な気持ちになるが、彼女もやはり、
ザノンの眼に戻った光は邪悪なものではないと感じ…
脚の動きを止めて、ザノンの上着を掴むと自分も立ち上がる。

 「来たばっかりでしょ?」

 ザノンがネルから上着を受け取りながら、怪訝そうに問う。

 「自分が最初、授業でない理由を質問したくせに聞かないでどこかいくわけ?」

 ネルが眼を閉じてため息をついて軽く頭を左右に振る。
段差をつけて、セミロングの髪の毛、頭の左側から綺麗に分けた前髪の、
柔らかい金色の束がパタパタと揺れる。

 「…ぃやぁ…」

 ザノンはそうだったと頭を掻いた。

 ネルはと言えば、その、ザノンの奥底にある物は、邪悪なものではないとは思う。
けれども、抱えているのはクロウスのような
不穏なものでない事を確かめたい気持ちと言うのも芽生える。
彼には、なるべく自分が知っている彼の形を持っていて欲しいと、ザノンの眼の色を見たネルは意識の中に描いて
にこりと笑う。

 「お腹空いたから美味しいもの奢ってよ。そこで話したげる」





 「どうよ、リブラ。理屈がうまいのと、実機操縦がうまいのはまたべつもんだぜ」

 アッシュが、コクピットハッチを開放して、
上部足場に続く階段から降りてきているリブラに得意満面の表情を見せ付けて、手をひらひらと振る。
事実、アッシュの班はクラスでも抜きん出てシビリアーをうまく扱えるのがまた、リブラのカンに障った。

 今日も授業の最後のまとめとして、運転の見本を示すよう指示されたのはアッシュである。

 「騎士になったら、扱うのはシビリアーじゃないだろ。シビリアー程度の操縦で得意になっちゃって」

 リブラは、むっと頬を膨らませてから、コクピットハッチを見上げると
視線を逸らしてアッシュにケチをつける。

 「偉い機嫌悪いじゃない、そんな怒るなよ」

 こんな事で、他人の機嫌を損なうのもつまらないなと胸中溜息を吐く
アッシュは、多少ムッとしながらもハッチに脚をかけて、
ハッチから降りて、笑いながらシビリアーの足元に近寄ってきたリブラの二の腕をぽんぽんと二度叩く。

 「怒ってねえよ、アッシュはザノンがいないからってちょっと図に乗りすぎだから言ってるんだ。
俺の班になった途端にあいつが授業に出てこなくなって、
模擬戦でも一番になれていいよな。俺達、あいつのサボりに脚引っ張られてるんだぜ」

 性根は悪くないし、自分の持っている知識や情報を整理するのが上手だとアッシュはリブラの事を評価している。
リブラも、臨機応変にするべき事を即時組み立て、
状況に柔軟に対応できるアッシュの事を同じように下に置けない相手としてみていたが
いかんせん、リブラは一言多いタイプだったし、
アッシュは、ナーバスになっている相手の感情の波を読みきれない、
大雑把な部分と言うのを持ち合わせていた。

 「なんでザノンが出て来るんだよ。
班変えで何でも人のせいにする性格のお前と当たったのが嫌になったんじゃねーの?」

 リブラの言葉の棘に刺されて不機嫌になったアッシュが、掌で軽くアッシュの事を押す。
アッシュからすれば軽いのだが、アッシュは同級生に比べて長身で、腕力自体もある。
若干小柄な部類に入るリブラは、軽く押されて二三歩よろめいた。
はっとなったアッシュが悪い、とリブラに手を差し伸べるが、リブラは腕を払ってその手を払い飛ばす。

 「はぁ?何いきなり殴ってるわけ?」

 「謝ったし、そもそも殴ってないだろ」

 やめなよ、と売り言葉に買い言葉の
不穏な気配を感じたアッシュ班の少女ブルーと、リブラ班のリサが割って入るが、
二人はにらみ合うのを辞めようとしない。

 リブラが口を開きかけて、不穏な空気が爆発するかという間一髪のところで
駆け寄ってきた年長の女性がいきなりアッシュの紺の防護服の胸倉を掴んで、
思い切りその頬を煙の出そうな勢いの平手で一撃する。
長身のアッシュがその平手の勢いで思い切り横に転ぶ。
女性は、わ、と腰の引けたリブラの胸倉を引っつかんでやはり、平手を見舞う。
リブラは、一瞬地面から浮いていたとブルーとリサの眼には映る。

 「やめないか、私の授業中に勝手に私語をした挙句に、
ポンコツどもがどっちがポンコツか議論など、どんな冗談だ…ああ?
口からクソ垂れる前にもうちょっとマシな人間になろうと思わんのか、出来損ないども」

 二人に平手を見舞った年長の女性は、ハスキーな声で二人を叱責する。

 「ガーハート先生」

 名前を呼ばれる声に答えの代わりに、女性は倒れたリブラの脇腹に思い切り蹴りを入れる。
爪先に金属板の入った、魔装鎧操縦用のブーツである。その威力は生半可なものではない。
うーッと苦悶の声を上げながら、リブラが地面に転がったまま背を丸める。

 「マスかきやめ。さっさと起きろ」

 指をちょいちょいと動かして二人に起き上がるように指示した彼女も
シビリアーに乗って生徒を指導するため、防護服姿である。

軽く外側にカールした金髪を揺らして、ガーハートと言われた教諭は、何とか立ち上がった二人を交互に睨む。

 睨んだ後で、平等にせんとな、と呟いて、彼女はアッシュのすねを思い切り蹴りつける。
アッシュは苦悶の表情を浮かべて姿勢を崩しかけるが、ここで姿勢を崩したらまた何かやられると
嫌な汗を額に滲ませて、必死で耐え切った。

 「なにかお前ら、今の事について口から垂れたいクソは有るか?」

 リー・ガーハートはスパルタ方式で有名な実機操縦の教官であり、
彼女の掛ける眼鏡の縁はそのスパルタ方式が血を連想させることから、
返り血で赤いと生徒の間では言われている。
黙っていれば美形なのだが、小さなミスに対しても容赦をせずに徹底的に口汚い言葉で叱責する上に、
叱る前にまず手が出てからの為、生徒の間ではこれ以上無い位に恐れられている人物である。

 体裁として、聞きはするが、問答無用である。

 二人はあると答えられるわけがない。

 「ありませ」



 バチッ







 言い終わる前に、アッシュが火花の出そうな平手で
再び横に弾き飛ばされ、リブラも思い切り平手で殴られる。

 「無いなら何で言い争いしてる。脳みそがファックしているから理由を忘れるのか?」

 この先生がこうだから、ザノンは授業に出てこないのかなと
鼻血を噴出す鼻を押さえるとアッシュは泣きたいのを堪えて起き上がった。





 「で、だ。ニール・ファフさんよ」

 「はい」

 メーテ・マリシンは休養の為にシール市に留まっていた。

 休養中であるはずなのだが、彼の雇用主である
ゴールデン・コヨーテ本部が人と面会して欲しいと依頼をしてきた為、
彼は渋々シール市のホテルのロビーで、目の前の男と面会している始末である。

 いや、厳密には男かどうかは判らない。

掠れた声の、
顔全体を覆う仮面を被り、席についてもコートを脱ごうともしないこの人物は
何者であるか。メーテは話をするこの人物のしぐさを観察していた。

 「具体的に俺に何をしろっていうのよ、おたくは」

 「王都に同行していただきます。メーテ殿は
魔装鎧の優れた乗り手でありながら、
名の売れた狙撃用長銃の名手でもあるとお聞きしました」

 「──長銃でなにしろっていうのを聞いてるのよ」

 苛立つメーテは、よく磨かれた鏡の様な、白い石のタイルに勢いをつけて手にした煙草を叩きつけて、
苛立ちを隠そうともせずに輪拍のついた薄汚いブーツで踏み躙る。
ホテルのロビーは禁煙の為、灰皿がないのだ。

 「ある人物を、狙撃していただきたいのです」

 ほーん、とメーテは不満げに声を上げる。

 「ある人物ってのは誰か聞いていいわけ?」

 面倒くせえ、とメーテはニールの、頭のを丸ごと覆う、丸く、白い鉄仮面を睨む。
自分の面や表情からして、端から隠して相手の表情は伺おうと言う手合いだ。

 なにか聞いても一々まともな答えが返ってくるとも思えない。
生来、木で鼻をくくる様なものの答え方というのを、
メーテと言う男は簡単に受け入れかねる性質でもある。

 (ツラを隠すなんざ、相手を舐めてなきゃできねえだろうヨ)

 メーテの覗く鉄仮面は、メーテの考えるように、
自らの表情は隠し、しかし、その奥の眼は穴でも穿とうかと言う程にじっとメーテの事を観察している。

 「恐らく、その人物はメーテ殿と面識はないと思います」

 そら来た、とばかりにメーテはバシッと自分の腿を一つ打つ。

 「会話にならねえんだよ、聞いてる事に答えてもらえねえか?」

 ふぅ、とニールの仮面の内側で溜息が篭るのをメーテの耳は捉える。

 「──マイトゥッド寺院の修道僧です。
名前を言うなら、モノ・アナンダという女性なのですが」

 カッとメーテは声を上げて鼻で笑う。
贔屓目に見ても、随分露骨な嘲笑である。

 (大した事でもねえ事をもったいぶりくさって、このガキャア…。
いちいち嫌そうな素振りをしねえと話がすすまねえ徒輩かい)

 そう胸中で毒づくメーテの苛立ちの表れだろう。足を組んで、上体をソファーの背もたれに預け、
両腕をソファーの背もたれの上に乗せるように乗せると、
メーテは無精ひげの目立つ顎をしゃくってじろと座りながらに相手を見下す。

 「ふん、暗殺ならどっかのえらいさんかと思ったが、
無名のアマ一匹なら大した金にはなるまいな」

 視線をいなすように姿勢を変えたメーテに、眼の奥を射られるのを嫌って、
ニールも体勢を変えて眼の内を覗き込まれないよう若干ではあるが、顔を下に向ける。

 「冠貨300枚を用意しています。手付けとして別に先に100枚お支払いしようかと」

 「…何?」

 新しい煙草に火をつけたメーテの手の動きがぴたりと止まって、メーテの三白眼が一瞬空中を泳ぐ。

 「合わせて冠貨400枚です」

 破格の報酬である。いくら仕事は殺人で、法を侵すリスクがあるとは言っても、
需要がある以上相場もある。
その相場から言えば、メーテの見積もった額から五倍も高値がついた仕事ではあった。
 「ふぅん、普通の額じゃねえな。
並の人間なら十年暮らせちまう額だが、どういうこと?」

 「申し訳ない、その部分に関しては、暗殺の仕事ですので、
理由に関して詮索していただかないほうがよろしいと思います。して、ご返答は?」

 またか、とメーテがケッと息を漏らす。

 「やんごとなきお方がとか言うヤツか。
名前を聞いた以上、断っても始末されるだけだろう?…いいだろう、また後で金と契約書をもってきな」

 ニタリと笑うメーテの眼には、仮面に遮られてニールの表情は読めない。
が、蛇の道は蛇であるし、相手が気に入ろうが気に入るまいが、仕事は仕事、金は金と
メーテは、そういった事象に関しては賢明であり、分け隔てもなかった。

 「かたじけない」

 メーテは、フンと鼻を鳴らすとガチリと輪拍を鳴らして席を蹴る。

 (王都にエクスが連行されて、
保険屋のマイトゥッドの坊主の暗殺が仕事か。時期的に偶然じゃねえ可能性が高いな…。
事によるとエクスとも一戦ある流れもあるかもしれん。
そうなら、よっぽど遊びでがある。いい仕事を拾ったかもしれねぇなあ)

 無人の野を行くが如くホールを闊歩しながら煙草を吹かして、フッフと思わずメーテは声を漏らして笑う。





 囚人服姿のエクスは、独房の中で汚らしく伸びた己の無精ひげを一つ撫でる。
兵士の足音が、この部屋の前で止まったのだ。

夜更けも夜更け。なにかまともな用で来る時間ではない。
それも、足音が一つ二つではなかった。少なくとも四人…とエクスは見積もったが。

 「クロウス・アーメイ──女王陛下が面会においでになった。入るぞ」

 とうとうこの日が来たか、と独房の中でエクスは身を硬くした。

 …と、同時に枕元の飾り石を手に取り、口の中に放り込む。

 一ヶ月前、独房に放り込まれた日、シャックスに連行される前に
飲み込んでおいて、独房に着くと同時に胃袋から吐き出した、エクスにとっての虎の子である。

 「どうぞ」

 カチリとエクスが飾り石を歯にぶつけながら答えると、
まず、軽装甲冑に身を包んだ獄卒の兵士二人が長剣を抜いたまま入室し、
最後尾の一人はリボルバー拳銃を構えて入室する。

 簡素なベッドに腰掛けるエクスに、
剣を手にした兵士の一人が「壁に手をついて脚を開くように」と命じたので、エクスは不承不承その通りにする。

 そうしてから、
エクスはいきなり剣を持っている兵士に二の腕を引っつかまれ、振り回すように椅子に座らされ、押さえつけられる。

 「おいィ?」

 エクスの怒声には耳を貸さずに、もう一人の兵士が荒縄を取り出し、
エクスの手足を椅子にきつく縛りつけ、拘束する。

 「久しいですね、クロウス・アーメイ卿」

 椅子に拘束されたエクスは、眼を剥いて兵士の後ろから姿を現したその人物…
赤いショールを羽織った、白いドレス姿の幼い女王シヲンを睨みつける。

 ぎろりと眼を見開いてエクスがまじまじと睨みつけるその顔。
女王シヲンを評して、美と言う要素を、一人その身に全て閉じ込めたお方と…かつて、ある騎士がのたまった。
透明ささえ感じられる神々しくも白い肌に、
年齢相応の小柄な体型で有りながらドレスから覗く首筋の優雅な曲線に、
鋭さと秀麗な曲線が融合し混在する輪郭…美の神にデザインされたような身体の微妙な曲線、 一片の花びらを思わせる仄かな紅の差した唇、シャープな鼻。
柳眉と形容するほか無い、しなやかで細い眉に、夜を吸い上げて尚輝きを放つ漆黒の瞳と、
その高貴な漆黒の色彩をそのまま、鞠の様に丸い後頭部に纏めて巻き上げた髪の毛。

 しかし、彼女のその完成しない、完成した美しい姿も、
今やエクスにとっては目指す敵の印以外の何者でもない。
身動きの取れないエクスが眦を裂いて己の顔を睨むのを見て、女王は隠微に笑みを漏らした。

 「どうも。恐ろしくて逃げて、結局は貴方様の手に落ちた惨めな私の事を笑いにいらっしゃった?」

 エクスは、顔の筋肉だけで笑い、戯れに言葉を紡ぐ。
あの時と同じで。

 「恐ろしくて逃げた?嘘ばっかり!貴方がそんな可愛いものですか」

 機嫌よくころころと笑う女王が、エクスには却って業腹であった。

 チッ、とエクスは舌打ちを鳴らす。

 ふふっと隠微に笑うと、女王は兵士達を押しのけて前に歩み出る。
女王は、しげしげと縛られた囚人服姿のエクスを上から下まで眺め回すと、
機嫌よく独房の陰鬱な黒に近い灰色の、石の床を靴の底でもって
カツンと鳴らして兵士達の方にくるりと向き直り、兵士達に告げる。

 「クロウス卿と二人で話を聞きたいと思います。皆様には、少しの間、部屋の外へ出ていて頂きたい」

 なんと、と女王の言葉に兵士達は動揺する。

拘束されているとはいえ、この、幼い女王の命を狙った者と女王を二人きりにさせるなど正気の沙汰ではない。

 「女王陛下、お言葉ですが…それは、出来かねます」

 兵士の一人の言葉に、まぁ!と女王右の掌を口に当てて、眼を見開いて大げさに驚いてみせる。

 「貴方がたの王は誰なのかしら?」

 「は、ナイトガルド女王、シヲン・ミドガルド陛下であります」

 女王は、見開いた瞳を今度はにこりと笑って隠す。
表情豊かに話す女王と、その内容の醸す不穏な気配に三人の兵士は、少なからずたじろいでいた。

 「そうですね、頭の硬いシツダやヨシュアの言いそうな事だけど、その二人だってわらわの言う事なら聞きますよね?」

 「仰せの通りです、しかし、万が一の事が…」

 「遺言は?」

 言葉の途中で女王に言葉を被せられて、女王を諭そうとしていた兵士は、はと息を呑んだ。

 「あなたの、遺言ですよ。王命に逆らうのですもの。
強権でもって処刑されてしまってもおかしくはないと、思いませんか?
ご家族も一緒に死んでもらう事になって、すまないと詫びるしかないですよね?」

 普段の寛容な女王とは思えない言葉に、兵士はうそ寒いもの、根深い怨念を感じて、言葉を呑む。
一瞬の目配せを兵士達は交わして、
兵士の一人が女王の前に跪き、後ろの二人もそれに習い、跪いて自分達の言葉を取り下げる。

 「…いえ…我々は女王陛下の、仰せの通りに。何卒、それはご容赦ください…」

 「結構。すぐ済みますので、部屋の外でお待ちいただけますこと?」

 ぱしっと掌を合わせて打ち鳴らすと、女王は優雅に腕を伸ばし、ちょっと首を傾けて、兵士達に鉄扉を示してみせる。
兵士達は、戸惑いながらも退出し、部屋の外から、心配そうに中を伺うが、女王は振り向いてそれも咎める。

 「鉄扉を閉めなさい。覗き窓の鎧戸も下ろす。クロウス卿と、わらわの名誉にも関わる話をいたします」

 女王の剣幕に、兵士達はやむなく重い鉄の扉を閉め、鎧戸をガラガラと音をさせて引き下ろした。

 暗い部屋の中で、天井の明り取りの窓から入る月明かりを頼りにエクスは女王を見、女王も黒い瞳でエクスを射る。

 「やっと、二人きりになれましたね」

 「こっち見んな」

 エクスの言葉に、女王はさもおかしそうに笑う。

 「貴方の怨念を解き放って、人間をまた一つ、自由に致します」

 女王はエクスの方に歩み寄る。
その瞳にはこの世ならぬ異様な黒い炎が燃えているとエクスは感じた。

 「近寄るな!」

 叫ぶエクスの前で、女王が歩を止めて、白い手袋を外す。
エクスは、身体が震えるのを抑えることが出来なかった。

身体を揺すって縄目から逃れようとするが、エクスの剛力を持ってしても
そう簡単にどうにかできるものではないというのは、エクス自身も理解してはいたし、実際に
そうしてもがいても、エクスを椅子に縛り付ける縄はギシギシと椅子をきしませるばかりである。

 逃れることは、出来そうにない。

 「素敵…貴方は、どんな形になるのかしら?」

 すいと女王の左腕の先の…細工の様に美しく細い指が、エクスの額の疵に触れる。
女王は、恍惚としながら冷ややかな指を、その傷口の感触を確かめるように何度も、その表面を往復して滑らせる。

 「触るな」

 短く言葉を吐き捨てるエクスの眼を、顔を近づけて女王が覗き込む。

そうして、彼女はその白魚のような指をエクスの肌の上をゆっくりと滑らせ、彼の唇に押し当てる。

 氷を押し当てられているかのような冷たさの指の向こうで、女王の黒い瞳は
何か得体の知れない輝きを見せて、ゆらゆらと揺らめいている。

その恐ろしい気配に、エクスが息を飲むと女王は唇にあてていた指を再び滑らせて、
エクスの胸板にあてがう。

 「自由になりたい、と言いなさい」

 微笑みながら、女王は冷然とした声で言い放った。

魂を奪われるような笑みを見て、エクスは凍りつく。

しかし、一瞬後に自分を取り戻したエクスは、女王の言葉に抗う意思を見せ、猛禽の瞳で女王を射る。

 「なるかよ、うつけが!自由とやらを伝染させて…たとえ、俺の形が無くなったとしても!」

 「そう──でも、もう遅い。貴方も、一人になりなさい。
全てのルールを捨てて。
マラナ・タ──おいで、クロウス・アーメイ」

 女王の唇が、エクスの唇に重ねられる。

冷たい唇の奥で、ぞわりとなにかが動く気配を感じたエクスは身をよじらせて、女王の唇から逃れる。

 がしとそのエクスの髪の毛を女王の小さな手が掴む。少女とは思えない剛力で、
エクスは椅子の背もたれに身体を押し付けられた。

 ミシリと椅子が軋む。背骨をへし折られるかのような恐ろしい力にエクスがウウと呻く。
女王が、高い声で笑う。

笑うと、女王は、再び顔を近づけて、
吐息のかかるような距離で、エクスの眼を覗き込んで、鮮やかに赤い舌をちろりと出した。

 どこまでも深く黒い瞳は、エクスの心臓を掴んで離そうとはしなかった。

幻か、エクスの右目からは、ちょうどその姿を明り取りの窓からのぞかせている月に
亀裂が入ったように見えた。

 女王が、エクスの瞼に接吻し、眼球を舌で掬うように舐める。
ズルリと一舐めしたあと、女王は、舌の先端をエクスの眼球にあてがう。

 「うッ──!」  呻くエクスの目の前で、ブツリ、ブツリと音をさせて、女王の舌を突き破って、扁平で、細長い蠢くものが
いくつも姿を見せる。
姿を見せたそれは、櫛状の脚を数え切れない程持つ、百足のような生き物である、とエクスは認識した。

張り付いたエクスの右の頬を覆うほどの数のそれらは、女王の舌から生じ、段々とエクスの眼球に迫る。

 肌を粟立たせ、エクスはそれから逃れようと、身体を揺すろう、頭を振ろうと試みるが、
彼を押さえつける女王の腕の力は全く衰える気配を見せない。

 女王は、その舌を喉から音も無く伸ばし、べとりとエクスの顔に、血の通わないそれを押し付ける。
そうして、女王は笑う。眼を細める。
 南無三、とエクスは口中の飾り石を思い切り噛み砕き
女王の使いのムカデの一匹は、ついにエクスの眼窩に脚を掛ける。












 ブチッ





 












 自分の眼球の破裂する音を
頭蓋骨の振動で聞いて、飾り石を噛み砕いたエクスのギャアという絶叫が、監獄の中をこだました。