03.sign of ex-calibur





 「おらァ、そこの!前のやつ押すなっつってんだろ!
いちいちびびってねえでおちついて避難しやがれ!」

 コクピットハッチを開放した、紫の魔装鎧のコクピットから身を乗り出して、
フリッツ・ヘルムの上にゴーグルを引っ掛けたパイロットと思しき青年が
半ばパニックに陥りかけた眼下の市民達に大渇する。

 「モアブ・ログ。皆怖がってるぞ、もちょっと穏便に言わないと」

 泰然とした口調で隣に並んだ魔装鎧のパイロットからの通信が紫の魔装鎧に入る。

 「ガラ・ニエフがそんなこと言っても!普通に言う事聞きやしない!」

 モアブ自身も苛立っているのか、
グローブをはめた右拳をばちんと左の掌にぶつけて音をさせて見せる。

 「誘導する俺らが慌ててたらそりゃ、皆も慌てるさ。不安や恐怖は疫病と同じなんだぜ?」

 「まぁ…わかるけどさぁ!」

 手にサブマシンガンを構えた紫と白の魔装鎧は、
若干の違いこそあるが…基本仕様はほぼ同じ機体であると見られる。

 コモン・アーマー、グラデス。

 まず目に突くのは、丸く、小さな頭部に、
小さな頭にそぐわない大きな面積を占める、目の様な赤いセンサー部分である。

 首が見当たらない鍋をひっくり返した様な頭部に繋がる胸、
それに肩の装甲は厚く、直線的で、
モアブの機体の胸部中央が開いているところから、
この機体はコクピットハッチが胸部中央であるのがわかる。

 それぞれモアブ機は短剣を四本、腰部の短い装甲に据え付け、
ガラ機は肩の後に無反動砲一本と腰部に握り棒が
横になった短剣、カタールを固定させている。

   廉価で有りながらも、軽量武装の拡張性が高く、
扱いやすいところから人気のある機体である。

 軍属ではないが、彼らも銃後に備える兵力として十分な能力を持つ、
この、シール市の青年団の有志ではあるが、やはり、経験という部分では
軍属の兵士たちに一歩を譲らざるを得ない。

 「…判ると言ったらさ」

 ガラがコクピットの中で、
指を組んで何かを考えるように、機体透過された眼下の光景を見下ろす。

 モアブと同年代の二十代前半であろうが、
短く切ったつやのある銀髪は、青い瞳と合わせて
どことなく彼が思慮深い人物であるという印象を与えさせる。

 「なんとなくだけど今回はやばそうなんだよな、ルサンチマン」

 「レベル3だから、危なくない事はないのと違う?最初から」

 モアブが不思議そうに言葉を返したが、それを聞いてガラがうーん、と考え込む。

 「レベル3ってのは街道が封鎖されるじゃない。
で、街から近いところで交戦があるかもしれませんよって警報なんだけどもさ」

 「や、わかるよ?ことによると、
俺らも戦力として駆りだされるかもしれない、って空気もあるでしょ」

 「そうねえ。その、【かもしれない】って部分がなんか濃いっていうかさ」

 モアブが不穏な空気を感じて、囁くようにガラに通信を送る。
きつめの眼つきをした眼を、緊張を隠すようにモアブはニ三度瞬きをさせた。

 「どうしてよ」

 「まぁ、噂なんだけど、ずっと前にでたって噂の、
寄生型ルサンチマンが街の中で出てるらしいんだよね」

 「…本当マジ で?」

 「いや、噂よ。
けど、それを裏付けるようにこのパニックでしょ。
いつものレベル3じゃないもんこれ。
魔装シール・ネットだと情報封鎖がされてるのか避難情報くらいしかわからないしさ」

 「まぁ、備えあれば憂いなしっ…とはいうけど」

 「そうね、ぶっとばしゃあいいとか言うんだろ?」

 コクピットの中で、ガラが歯を見せて苦笑いする。

 「おう、ぶっとばしゃあいいよ、ルサンチマンなんか」

 彼の口癖なのだろうか、モアブは構わずにそう言って呵呵と笑った。





 シール市の四方に巡らされた壁の、
南側。そこにはシール市内と近隣から集められた戦力が続々と集結していた。

 それでも今現在、市の城壁の南側に展開され、
進軍の準備をしている戦力の総計は魔装鎧は現在の所三十機と支援車両四台。

 爆発的にその数を増やし続けている、
ルサンチマンの旅団に当たるには不安の残る数字ではある。

 日はもうすっかりと落ちて、あたりは重苦しい沈黙が支配している。

 ルサンチマン達の数字は昼時、

エクスたちが参照した数の更に三倍、つまり十倍に近い数字をたたき出している。

 発生元である、ローカルマザーから相当距離が離れているに関わらず
距離を元に考えると、史上最大といえる数の増やし方をしているルサンチマン達。
一体なぜ…という疑問はやはりこの場にいる全員の胸中にある。

 しかし、言葉で問おうとルサンチマン達は答えない。

 おそらく、ルサンチマンは人間の言葉を理解しているとされる考えがある。

 しかし、彼らは人間と意思を
共有するつもりも交渉の意思も全く持っていないであろう、とも言われている。

 こんなにも厄介な敵、と言うのはこの世界の人間とて、人間を置いて他に知らない。

 人間同士で戦争などしていられない、している場合ではない。

 一部例外を除いて、概ね世界は、ナイトガルドだけでなく
東方諸国、それに北方の工業の発達した大陸の諸国でもそんな暗黙の了解は出来上がっていた。

 人間達は必死になった。
 なりふり構わず、お互いの文明を吸収し、
狂気をはらんだ好景気でお互いの兵器を輸出入し、軍需産業はこの百年で爆発的に発展した。

 しかし、人間達が百年戦っても、
ルサンチマン達は全く減ることもなくじわじわとその数を増やし続けている。

 長いもので三ヶ月の寿命しか持たないルサンチマンは、
ただ人間だけを殺しにやってくる理不尽そのものの存在であるとして、
人間達はその理由を探るのを諦めかけていた。

 理由なんか、判らない。殺しに来るなら相手を殺せばいい。

 疲れ果てた、痩せた人間の魂はそこにしか答えを見出せなかったのだ、現在の所。





 「ゴールデンコヨーテはエクス班の他に、メーテ班も送り込んでくるらしい。
彼奴等は部隊をアンコモン・アーマーで統一しているから…相当な戦力になるな」

 シール市の防衛隊の指揮をとる前線隊長と思しき、髭を蓄えた屈強な壮年騎士が、
ノーブル・アーマー、ダィンスレーの中で指揮車両スレイプニルに呟きを送る。

 「左様で、ペイン卿。
グレン殿も代替機のダィンスレー・リファインの調整を終えたら参戦するそうです」

 ペインはコクピットの中でムウと一つ気難しい唸り声を上げて、立派な顎鬚を一つ扱く。

 同じ騎士で有りながらもこのペインは銀剣階級という下層階級の騎士であり、
グレンの階級、銀盾からは六つほど階級の格差がある。

あくまでこの戦闘の指揮権は
、地理などをよく把握したこのペインが有するということになるのだが

こうも大掛かりな戦闘になって、自分より年下の上司の乗機を指揮した経験というのは
このペイン、有していない。

 「複雑ではあるな。
それに、各機能をオミットした機体で私よりいい働きをされるというのは正直どうもな…」

 ペインと言うのは、実直な男である。

 が、同時に額に年輪のように刻まれた深い皺からも伺えるように長いこと騎士として
有事の際には戦ってきたプライド、というものもある。

 グレンの戦いの仕様しざまというのも
折りがあって一度みたことがあるが
…まるで別世界の存在である、というのがその時ペインがグレンに対して抱いた感想である。

 頼もしい気持ちもあるが、
武人として己が情けなくもある。それがペインの、今の複雑な胸中であろう。

 切ないやるせなさは、ペインの胸のうちで膨らみ、
やがて行き場を失って、言葉となって先ほどの言葉として漏れたのだ。

 「…いや、すまん、忘れてくれ。今のは…」

 溜め息をつくと、首を振ってペインはスレイプニルの乗員に呻くように呟いた。

 いかに巨大な鎧で武装しようとも、それを操るのは罪もあれば嘘もつく、人間という存在である。

 その乗機、ダィンスレーはその優美なシルエットの中にペインの悲哀を隠し持っている。

 その小さな人間の悲哀は、この巨大なマシンにさえ影響を及ぼす。
それはどんな世界でも通じるいわば摂理、人間の心の運動というものであるが…。

 隠す、というのは一見して見えなくなる事である。

 ダィンスレーの細い腰から伸びる優雅な胴体と、
力強くも美しい曲線を描く脚部、
それに肩から指先までが一本の線となる、細く、華奢に見える作りの椀部
機体後部まで延びる細長い頭部というその鎧に隠されて、やはり、ペインの悲哀は
今のところ、他の誰も知る由もない…。





 暗闇に浮かぶ鬼火の様な、
熱いながらも陰鬱な痛みを胸に感じてザノンは目を覚ました。

 「ッはぁ…」

 ここは、学園の医務室であろうか…。
そのベッドの一つに寝かされている自分をまず、ザノンは知覚した。

 溜め息を一つついて、額に右の掌を当てると寝汗をかいていたのか湿った感触が返ってくる。

 自分の寝汗でぐしょぐしょになった寝床から体を起こそうと、ザノンはベッドについた腕に力を込める。  治療用であろうか、
きつく巻かれたコルセットがぎしりと自分の体を圧迫して、雷のような痛みが胸に走る。

 「痛ッ」

 ザノンは痛みに反応して思わず胸に手を当てる。
学生服の下に着込んでいたシャツのボタンが外され、そこにコルセットの存在を
確かめたザノンは、ようやく自分が骨折していたのを思い出した。

 あれから、治療を施されて寝ていたんだ…。
口の中でそう呟くとザノンは今度は慎重に恐る恐る身体を起こす。

 「おきたのかしら、ザノン君?」

 衣擦れの音を聞きつけたのか、ベッドの前のカーテンの向こうから女性がザノンに声を掛ける。

 「今、時間ってどれくらいですかね…」

 「大人の時間よ」

 自分の言い回しが可笑しかったのか、ふふっ、と笑う声がして、
カーテンを開いて、女性がカーテンの内側へと入ってくる。

 美しい、長い金髪を後に巻き上げ、細いめがねを掛けたザノンよりも
年長の女性は、姿勢を低くしてから、ベッドに腰掛けたザノンに盆を差し出す。

 「はい、湯冷まし。今日は皆家に帰れるってわけじゃないみたいね…
ちょっと、今日の警報は深刻みたい」

 「マリー先生、じゃ、皆まだ学校にいるんですよね?…何してますかね?」

 盆の上から湯冷ましの入ったグラスをとって、
それに口をつけて、ザノンは上目遣いにマリーに訊く。
マリーがさらに姿勢を低くして、ザノンにぐいと顔を近づける。

 「それ訊いてどうするのかしら?訊いて安心して寝る子じゃないわよね、貴方」

 いきなり核心を突かれて、ザノンは、
う、と湯冷ましのグラスに口をつけたままマリーの白衣から目を逸らす。

 とはいっても、マリーの控えめな香水の香りはザノンの鼻腔を捉えて、
余計にザノンは意識を、マリーの軽い圧力に奪われてしまう。

 「だって、知りたいじゃないですか…」

 マリーはまた溜め息をつくと、ザノンの額を軽く指で押す。

 「話をそらさない。訊いて何をするのかって訊いたのよ?
全く…そういう話の仕方、嘘を沢山つく子になりそうで心配になるわ」

 ザノンは自分でも理由は判らないのに、何故だかぎくりとして、慌てて否定をした。

 「嘘なんかつきませんよ」

 「ほらね、女たらし見たいな言い回し!」

 マリーが苦笑いをすると、低くしていた姿勢を戻す。

 「他にも具合悪くしたりしてる人いるから、もう行くわね。
朝起きたら少し状況はお話してあげるからもう少し寝てなさい」

 いいわね、と念を押して、ひらひらとマリーが手を振ると、
カーテンの外から先生、と折り良く呼ぶ声がザノンの耳にも届く。

 そういうの余計気になるな、と口の中に呟きを溶かしてザノンは周囲の壁を見渡す。
脇のベッドはあいているところを見ると、
怪我人や病人は、学園の医務室が埋まるほどには多くないらしい。

 ザノンはやむなく、起こした身体を戻して、無理やり寝ることにした。

 目を閉じて、そこにある暗闇を意識するとそこに何かが…先ほどの少女に似たものが、
潜んでいそうで…、
ザノンは、少し怖い、と思った。





 「グレン卿ぉ、やっぱり、こっちを使いますかねえ?」

 学園ドックの一角、アンコモンアーマー、
ダィンスレー・リファインの開放されたままの下腹部コクピットシートに
乗り込んでいるグレンを目ざとく見つけて、パイスタスがドック上部、
四方に据えつけられた通路から身を乗り出して、グレンに声を掛ける。

 グレンは、ちらりとパイストスの大柄なシルエットの方に視線を送ると、
詰襟のロングジャケットの襟を開いて、自分のペンダントトップを摘む。

 「私にカリバーンは、使えませんよ。あれは特別な機体です」

 ああ、とパイストスが自分の耳朶の金属板に指を掛ける。

 「性能が?それとも、観念の話でしょうか?」

 素朴な疑問をぶつけるパイスタスにグレンは複雑そうに溜め息を吐くと、返事を返す。

 「…両方です」

 むうっ、と残念そうにパイスタスが太い毛むくじゃらの腕を組んで虚空を見上げる。

 「マ、グレン卿がそう仰るならしかたありませんやね。あ、それアドミンで調整してますか?」

 「ええ、今のところそうしています。しかし…OSまで古いのですね、これ」

 「ええ、私も吃驚したもんでさ。
まぁコストパフォーマンスを重視した機体ですから仕方ないといえば仕方ないですけどねぇ。 加速はいいですが当然最高速も劣りますし、
関節の稼動範囲だって制限されている、ジェネレータの出力は言うに及ばず…ときたもんですわ。
アンコモンとしちゃ、相当なものなんでしょうが…ね」

 それはそうか、とグレンがコンソールの一つを叩く。
 魔法契約のサインを求める映像が、コンソール上に開いてカーソルが点滅する。
 「使役者たる我はグレン・オウディス…汝の名は赫龍と号するなり…と」

   パイスタスはまだ残念そうにコクピットの中の
グレンを見つめていたが、諦めたのか踵を返すとその場を返そうとするが、
近くに居た学生を見つけると無意識に声を掛けてしまっていた。

 「九番ドックのあれ、どうしてる?」

 声を掛けられたヒサノは切りそろえられた綺麗な金髪の下の眠そうな目を一つこすって顔を上げる。

 どうやら、彼女は作業をひと段落したのか、作業用のオレンジ色のつなぎの、上だけを腰から下にぶらりと下げ、
上は通常授業の時に着用するブラウスという出で立ちである。

 欠伸をかみ殺したらしく、眠気で赤くなった頬の辺りの筋肉がぴくりと動いたのがパイスタスの目にも認められた。

 小憎らしいが、才色兼備を絵に描いたようなのがこのヒサノという少女である。

 「わけわかんないです…あの機体って、ブロックされてるところ多くありすぎません?」

 「お前さんでもわからんかぁ」

 パイスタスはまたまた溜め息をついて、もう一度腕を組んでみせる。

 「本当にあれ、使えるようにしておくんですか?
まぁ、今遊ばせておく機体は、そりゃないほうがいいですけど〜…。
私も学校のシビリアーとかの整備を充実させるのに廻ったほうがよくないですかね?」

 ヒサノの言葉にパイスタスは、うむうと唸ると、
今歩いてきたほうを振り返って、ダィンスレー、リファインの背中に視線を送る。

 ヒサノを見て、ダィンスレーの方を振り返る動作を何回か繰り返すと、
パイスタスは意を決したように両の掌を打ち鳴らす。

 「まぁ、折角だ。お前さんのわからん処は私が教えるから、
あれの最終調整を手伝ってくれ。設計、出来るようになるためには損にはならんだろぉしなぁ」

 「まぁ、どうせ徹夜だろうし、私はどっちでもいいんですけど」

 ヒサノは観念したという風に目を瞑って首を振ると肩を竦める。

 「…調整をするのはいいですけど、くどいようですけど私は乗りませんからね」

 通信をきり忘れていたのか、グレンから抑揚のない言葉で、パイスタスに通信が入る。

 「あ、こりゃ、グレン卿…へへへ、どんな時も有事の備えってのはね、へへへ…」

 照れくさそうに笑うとパイスタスは
もう、通路を階段にむかって歩き始めているヒサノを慌てて追いかける。

明り取りの窓から見えた、この世界の満月は、血で塗られたような真っ赤な満月であった。

 「クロウス卿もいれば、心強いのだがなあ…」
 適わないとは知りながらも、パイスタスは敬愛するナイトガルド十聖槍の名を呟く。

 同時に、その名は現在のところナイトガルドで
重犯罪者と判決された、逃亡中の兇悪犯の名前でもある。







 「よお、エクス。久しぶり。そっちは大分もう、シール市に近づいたみたいだな」

 ゴールデン・コヨーテ、別班の班長、メーテ・マリシンの低い嗄れ声が
クヮイケンでのオクトパス前方の警戒を終えて、
デアブロウのコクピットシートに帰り着いたエクスの耳に飛び込んでくる。

 「メーテか、やっと連絡がついたな。やれやれ、今夜はどうやら走り通しだ!
…しかし、さすがに対空砲が俺のデアブロウだけでは心細かったところだ。
…現況のデータは、見たな?酷いもんだ」

 エクスが溜め息混じりに言葉を紡ぐと、ハハッと短い笑いが返ってくる。

 「ああ、こいつぁ…まるででたらめだな、シール市にちょっかいを
出すような、なンかがあるって事かねえ?」

 通信の向こうの僚友、メーテという男、
経歴は詳しくわからないが、
とにかく高度な訓練を受けた兵士であることはエクスも了解している。

 エクスよりもさらに長いぼさぼさの金髪に、しゃくれた顎、
それに太い揉み上げに顎を縁取る無精髭。何よりも、細く、冷たい炎をいつも燃やしているそのメーテの眦を
エクスは思い返す

 「シール市が何をしようが、そいつは知った事ではないが…
そういうのは計画的にやってもらいたいもんだね」

 「ぁあ。ばれる嘘は最悪だな。ルサンチマン先生に
気づかれないようにしてもらいたいってもんだが」

 鼻を鳴らしたのか、フン、という吐息の音がメーテの通信に混じって聞こえた。

 「いずれにせよ、仕事は仕事だ。臨機応変にいかないと、使えないってンで仕事もなくなっちまう」

 「…なァ、おたくはさ、なんだと思うよ?」

 メーテの突然な質問になにか不穏なものを感じてエクスは小首を傾げる

 「なにがよ?」

 「シール市がなにか秘密を持っているとして…よ。エナジー・コンバーターでも増設した?
とんでもない魔装鎧でも買い込んだ?密かに軍事施設でも増強した?…どれかだと思うんだがねぇ」

 この男は、好奇心が旺盛だな、とエクスは苦笑いする。

 「知らんよ、他人のゴシップには興味ない」

 「そうね、このムッツリスケベッ」

 溜まらずにエクスはハハハ、と声を上げて笑い声を上げる。

 「エクス」

 笑いながらメーテがエクスの名前を呼んだ。

 ああ、とエクスもまだ笑い声を発しながら答える。

 「俺らが着くまで、ドジ踏むなよ…お前さんらと一緒にやれねえんじゃ面白い戦場じゃねえ」

 「世辞か?」

 「慇懃無礼だな、エクス」

 二人はもう一度声を上げて笑う。

 ああ、自分達は酔っているのだ、とエクスは額の古傷の辺りに僅かな熱を感じる。

 何に酔っているかって?死の予感に決まっている!どんな美酒も、それに匹敵する陶酔は、もたらした事がない。

 エクスは、胸のうちにそんな自分がいる事を了解すると、またな、とメーテと別れの挨拶を交わし、
通信を切って、深くシートに身体を預けた。