042.Shadow Run:22_About_Unknown





 ──重大なエラーを三箇所で発見しました。   修正を適用して再起動しますか?(推奨) Y/N──

 ──N──

 ──エラーを修正しないで再起動すると以降もエラーが影響を及ぼす可能性があります。 本当に修正を適用せずに再起動しますか?──

 ──Y──

 ──ホ本当 に ──

 ──Y──

 ──ヴァ…──

 ──…──

 ──本当に──

 ──quiet.──

 サムソ山脈の森の中に鎮座するカリバーンのジェネレータが静かに音を変える。
浅い眠りの中で、夢を見る生き物の波打つ呼吸の様に一つの、
不規則な音楽を奏でたその騎体の膝を衝いた足元に、
胸から下を失い、胸板から下には胴体から引き抜いたように伸びる背骨を晒して
禁騎士の屍がへばりついていた。

 『理由だと』

 血の匂いを嗅ぎ付けてやってきた山犬は、樹上を見上げる。
そこでは、騎士の失った胸から下が枝に挟まって、
奇妙に柔らかい枝の様にぶらぶらと片足と腸を風に揺らしている。
滴るその血液は、地上に落ちて、
自分の首を地面についた脚と脚の間に落とした格好で絶命している
別の騎士の背中に落ちて雫を散らす。

 『下らない事にしがみ付いているんだ。
誰もがそうであるように、
下らない俺のつながりの思い出だけが、この懦夫小人の全てで、
俺の理由だ。
俺は、自分の形を忘れない。
傷は、繋がりだ。
俺と世界の繋がりを証明する計算式、
その道程に未知数が現象された記号だ。
俺の傷を奪うんじゃない。
それさえあれば
命を失くしても、最後まで生きることが出来る。
──繋がり、
どこまでも繋がっていく繋がりの、繋がり。
その、不確実な未知数の作る、
未来を
見る為であれば、俺は人の形を保っていられる』

 禁騎士二人の屍の間に鎮座するカリバーンのジェネレータの音が、一層小さくなる。
カリバーンの左眼に宿っていた光が、消えいるようにその明度を落としていく。
世界の一端を削り取り、刺していたその棘は姿を消す。
ジェネレータの音は、まだ続いている、
しかし、山犬はもはやその音も
気に止めない様子で屍の方へと静かに歩み寄る。

 ──…理解を中断にシフト。
エクスの意思に従って処理を実行に移ります──

 展開されていたカリバーンのコクピットのコンソールに、ぼんやりと明かりが灯り
数字が踊っている。

 人類の編み出したすべてを証明する記号にして
最も純粋な言語、二進数で彼らはコトバを交わす。
それは、人間世界において決して生じえぬ奇跡と言えるだろうか。

 この世にあるものは全て、必然に導かれ、そこに現象する。

 奇跡は、起こらない。社会を包む世界を包み、流れる宇宙と対になるものを誰も知らない。
それゆえ宇宙は絶対とされ、運命は孤独だ。
それでも、この世界で、そこを漂う原子や分子、粒子…クォークは、
記憶を頼りに世界を漂い、反発し、寄り添い、結びつく。
それらの必然は、奇跡と言えるものなのかも知れない。



 ルサンチマンの脅威が相当深刻なモルレドウ領に於いて
陸の流通の中継地点として
重宝されてきた小都市チェスピ市は、基地を有するものの
常駐する騎士を含めて人口六万人程のごくごく小規模な都市だ。
その城壁の砲台に向けて
発する銃火、砲火の閃光が、薄闇を切り裂いて天に伸びる。

 降魔騎士団のフラ・ベルジャが、盾の騎士団のスレイプニルが砲弾の雨を降らせ、
城壁を蹂躙する。

 ユンデル率いる部隊も城門へと迂回しているものの
先行のために城壁をダィンスレーに越えさせる侵入支援に力を入れる連合は
フラベルジャやバッソウを城壁の間際に集結させ、
城壁を破壊して侵入せんばかりの攻撃を加えている。

 「城壁の向こうにも、傷の騎士団の魔装鎧が徐々に集まっている。
と、いう状況下で壁を越えるとなれば、
反撃を真っ向から抑えて、制圧を仕掛ける事になる」

 バッソウTSの胎内でザノンはバッソウの情報システムと同期した
射光ゴーグルを眼に掛けてその視線を隠す。

 「バッソウ各騎の指揮はリー・ガーハートのフラ・ベルジャから
盾の騎士団のダィンスレー、リオーネ・トワニング卿に移行した。
しっかりケツを88ma砲で撫で回して貰え」

 はいよッ、任されたと声を上げるのは
恰幅の良い中年、緑のダィンスレーを駆る金剣騎士リオーネだ。

 砲火の逆光の中を歩み出るザノンの白いバッソウ、バッソウTSは
肉挽き器と通称される、旧式ながら強力な50ma機関砲【ブラウ・ニグス】二門と弾倉を肩から下げ、
アサルトライフルを腰部に背負い
マジックミサイル射出装置を脚に据え付けた凶悪なシルエットを垂直に、
音も無く空中に持ち上げさせる。
 ザノンは呵々と笑い声でガーハートの下品な訓示をいなすと
笑い声の残響、返す刃で切り返す。

 「先生こそ、自前の胸の装甲で、
しっかりスレイプニルの露払いをやっておいてくださいよ。
…美人の貰い手なしなんて奇跡を地で行くお方なら、
砲弾避けの護符はこれ以上を望めない」

 「…」

 「…」

 「今、何言った、こんガキャア!」

 「ザノン俺俺、俺が居る貰い手は俺」

 ザノンは数秒の沈黙を破って
反射的に叫ぶガーハートの怒号と
慌てて媚びるリブラの声を、
さも愉快そうに笑い飛ばす。

 「向きになってさ。先生も中々可愛いところがあるじゃないか」

 言葉に、声に。
普段のザノンらしからぬものを感じてもそれは戦場の
高揚の齎す揺れの範疇のものであろうかと僚友達は苦笑いを口中に融かす。

ネルだけはそれが、決定的な相違で有ることを察知したが
ふと、
その気配の中に、過去に自分を闇の中から浚い、
掬い上げた騎士達の面影に似たフレバーを
ザノンの声の色に感じ取って、口を噤む。

 自分の頭を撫でた掌の温度は、ひやりと冷たかった。
その思い出、回想の余韻に浸って目を閉じると、
刹那の間、その思い出の中に沈む。心の中の虚像に寄りかかる様に。

 ザノンのゴーグルの内側は、共有した情報で溢れ返っている、
遮断した世界をその身の外側に映し出すゴーグルで
眼を隠したザノンの口元がギイと歪む。
魔装鎧の外側の誰も、
その不吉な笑いらしき色を見るものは居なかったが。

 城壁と平行して高度を上げるバッソウ達と長大な88ma砲を背負い、
両肩の上部にブラウ・ニグス二門、背中からジョイント・アームで更に二門をぶら下げるという
重武装を施したダィンスレー、リオーネ仕様の【ライトニング】が続く。

閃光の花咲く空中で、
ザノンのフォローしきれない射角を睨むアッシュのバッソウGFがバッソウTSに並ぶ、
その後方に大盾の防御魔法でダィンスレーを守るリブラのバッソウRBが続き
ダィンスレーの後、最後尾に強力な対地砲と機関砲を備えるネルのバッソウRCが続く。

 城壁を睨みながら高度を上げるバッソウの胎内で、
ザノンは息を整え、見えざる城壁の向こう、
眼下の敵の動静を捕捉した情報に眼を凝らす。

 焼け焦げた城壁の天辺を抜け、都市の建造物の群れがザノンの眼前にその姿を顕す。  ザクリとザノンの血液が蠢き、囁く。

 ザノンの耳が、耳鳴りの様な音を伴って人の鳴き声らしき音を拾い
その音は、視覚の中に小さな光の球となって顕れて彼の眼をある場所に導く。

 ガツンとザノンのバッソウが、城壁の縁に軽く脚を掛け、機関砲を僅かに下げて都市を見下ろす。

 運送、魔装技術、労働者や兵士向けの廉価な商店。そういった人の欲望、灯火。
それらが
モルレドウの基地を囲み、発展してきた都市が、チェスピだ。
今、そこは、その中心に鎮座する地方騎士団に裏切られ
人間達の銃火と剣戟によって禍の飽和した街へと姿を変えている。
注いできた欲の脂は、注いできただけ烈しく燃える。

 火の手を避けて、人々が道路を逃げる。城壁と反対側、基地の方向に向かって、流れていく。
基地をほぼ制圧したスラス達の存在を考えれば、城壁に近い場所にいるよりは安全といえよう。

 「敵対する騎士、僚友たる諸侯への敬意と、
己の持つ闘志で。
その熱で、願いの為に鍛え、尖った意思を手に。
それを以って」

 足元から上に視線を走らせたザノンは、
亀裂のように走る建物と建物の隙間の一つ、クリスナの群れの認められる空間に視線を挿す。
そこには、腕力と装甲に強みを持つ、固太りの旧式魔装鎧のシルエットが有った。
安定したボディバランスを持ち、下半身の強度、安定性に重きを置いた事が太い足からも見て取れる
この魔装鎧の名はクリスナ。
精密作業には向かないが重い武器を扱え、建築や運搬用途にも転用可能な
コストパフォーマンスに優れる頑強な騎体だ。

クリスナの群れが一騎のクリスナを包囲して
アサルトライフルの銃口を向けている光景が有った。

 ザノンはもう一度ギイと笑う。

 幻聴の様にザノンの耳に届いた泣き声。
それは今、彼が彼方に捉えた光景、その場所で発せられたものだった。

 隙間からは装甲の僅かな反射光が細い帯を伸ばす。
その光の源、遥かな遠方。
瓦礫を背負い、それでも屹立する両腕の無いクリスナの背後、瓦礫と騎体の間には、
人間らしき白い衣服がうずくまっているのが認められた。

 「切り込む!」

 焦げた城壁を軽く蹴って、バッソウTSが跳躍する。
バッソウの視界を、上背の高い建物が、融けるように後方に流れていく。
跳躍し、急降下するバッソウTSは機関砲を振り、バランスを取りながら姿勢を制御する。
今眼に焼き付けたその場所を目印に、ザノンの意思が火を灯す。
飛び降りる先にも、敵と思しき魔装鎧が何騎か居るのをザノンは把握していた。

 「足元に居る騎体の識別は…団長派とかがいるな、
先ずは足場をクリアーにしなきゃならないぞ!」

 「はン、見りゃア判る!」

 アッシュの忠告する事態を把握している旨、ザノンは短く応じ。

 降下地点でバッソウTSを見上げて銃口を揺らしながらたたらを踏んだ
クリスナをバッソウTSは踏みつける。
魔装鎧同士の交戦に巻き込まれまいと、足元の市民達はばらばらと散開して
路地や瓦礫の隙間を縫って逃げる。

踏みつけて、軽く飛び上がったバッソウはクリスナの胸を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされて、天を仰いだクリスナのアサルトライフルが明後日の方向に弾を吐き散らす。

 反動で後方に飛び退く格好になったバッソウTSは
地面から人の背丈一つ分の高さを保って浮遊しながらも騎体の向きを変えず、
ぐるりと円を描くように後ろに下がり、
アサルトライフルに拠る反撃の火線をかわし、
そうしながらも右手の機関砲を引き上げ、旋回しながら掃射する。
大穴の開いた石畳がその破片を粉塵にして煙を巻き上げ、払うように掃射した機関砲の弾は
建物の壁に突き刺さって止まり
ザノンは手早くバッソウTSの機関砲の砲身を払って
反対側、左肩の機関砲をバッソウの左手で掴んで引き上げる。

機関砲の砲弾は
至近距離のクリスナを打ち砕き、その後方でアサルトライフルを構えたクリスナをも巻き込んで粉砕した。
ほぼ同時に仕掛けたとは言え、アドバンテージは僅かにザノンの側にあるし、
三次元先頭モードを利用して回避運動を取りながら撃ち放った
重機関砲の破壊力、攻撃範囲はアサルトライフルよりも格段に上だ。

 一分に500発前後の弾を吐き出す重機関砲を近距離で浴びては
相応に頑強な魔装鎧の正面装甲でも一溜まりもない。
肉挽き器の異名そのまま、
瞬きするほどの間に騎体を数え切れない程の砲弾に撃ちぬかれたクリスナ二騎は
洪水の如し砲弾を浴びた魔装鎧クリスナは
フレームまでをその弾丸に貫かれ
人型をしていたのかどうかも怪しい、正体不明の鉄塊になっていた。

 銃火の閃光の中でザノンは、ザノンにイブ・ヒューズの末期の貌、妹ウルズの最期の姿を見せる。

 (そうだ、僕もまた、死を作る業に手を染めてしてしまっている!
けれど…それ以上に)

 ほぼ同時に着地したアッシュのバッソウGFも二度目の機関砲の掃射の角度を合わせ、
残るクリスナを挟み、
まともな反撃も許さずにクリスナ達を駆逐していく。

 先制攻撃の眩い閃光にまぎれてザノンはバッソウTSの脚部からマジックミサイルを二本射出させる。

 砲弾は容赦なく周囲至近のクリスナ達の装甲を震わせ、貫き、吹き飛ばす。

倒れるクリスナの騎体と、建物をすり抜けて、マジックミサイルが飛ぶ。

 「高度を取って…距離500、400…」

 建物を避け、それを縫う様に複雑な起動を描いてマジックミサイルが飛ぶ。

 マジックミサイルの誘導に掛かったザノンのバッソウTSにクリスナが斧を手に襲い掛かるが、
重装備を物ともせずに機敏に低空を旋回しながら射撃姿勢を取ったダィンスレーのハンドピストルの光弾が、
クリスナの胸板を正確に貫く。

 「着弾!」

 風を焼き切りながら疾走するマジックミサイルは、急角度で弧を描き、
ザノンの見た対峙するクリスナ達の手前の、
役所だったらしき崩れ掛けの建物の壁に着弾する。

 対峙するクリスナ同士の、ぶつかり合う殺気を阻む様に
崩れる建物は膨大な瓦礫となってその中間に崩れ落ちる。

 両腕の無いクリスナが膝をつく。
コクピットハッチが展開し、中から転げるように脱出した騎士が
少年か少女らしき白い衣服の人物を抱え上げて後方に走る。
対峙したクリスナ達は、転倒した騎体に躓いたもう一騎と眼前に落ちてきた瓦礫に阻まれて
瓦礫の隙間に逃げ込む二人を追うには手遅れの始末と見えた。

 「助けられた…!?やった…!」

 ザノンが、優しい声の色と共に長い息を吐き出す。

 突如として声の上に
自分達の知るザノンがふらりと姿を顕したような感覚を覚えた
ネルは戸惑って、ザノンのバッソウTSを視界の中心に捉える。

 「…どんなキミも、キミだけど。
それでも。

烈しい自分にだけ囚われないで…いてくれるかな」

 誰にも聞こえないように独白を漏らしたネルは、手元のコンソールに視線を移し、
ね、と呟いてコンソール上のバッソウTSのシンボルマークを指でつつく。

 ──あの、幻聴の様にザノンの耳が拾った泣き声が、
ザノンの耳から遠のいていく。──

 (その業によって、救える人生や、
現実だって、あってくれる筈なんだ。
…僕が。
為す術無く死んだウルズを回想させる泣き声を
未来から、
現在から一つでも減らせるなら、
僕は何にだって…なる。
生きている間に何になってしまったって
擦り切れてしまったって構わない──

──いや──。)

 ──そうなれば、良い。そう願う。
そうなったら、ウルズ、最後に僕に、笑いかけてくれ──。
壊してしまった過去の向こうの、
もう、叶わない願いを追いかければ──最後まではそれが、無理だと
諦めないで済む。──

 まだ、彼の歩く道は彼自身にもはっきりとは見えない。

誰よりも大切だったウルズの死んだ時に割れて、道を失った日。
他の何もかも、誰もかもが、影になった日。
その日から昏い道を歩く事を彼は選び取った。
自分だけの痛みを忘れない為に、
人に痛みを分け与える事を拒否し、
人の痛みを奪い取り
そうして
自分を閉じ込め、抑圧した。

 今はまだ、失っていない誰かの、大切な誰かを守って償う為。
何度も、何度でも、何人も、何人でも。
クロウス、グレン、レオン…ペイン。
騎士達の様に強く、高潔に生きて、妹の代わりの誰かを守る事。
その虚像、星の光が照らし写す微かな希望の錯覚だけが、
今は、彼の道しるべだ。

 彼はまだ、よく道に迷う。

 「クリスナは安いし、頑丈だ。
それだけあってチェスピの中の駒の数は充実しているな」

 凹凸の目立つ、砕けた石畳と瓦礫を嫌ってリオーネのダィンスレーが
僅かに宙を浮きながら前進する。

前進しながらも、ハンドピストルの銃口を振って周囲を警戒する姿勢と貫禄は
相当な手練のものであるように見える。

 「ネル。88ma砲がザノンの方向いてて危ない」

 アッシュが後方のネルの不用心を軽く注意すると、
あ、うそと叫んでネルは慌ててバッソウRCの構えた砲を下げ
代わりに両肩から下げた機関砲を引き上げ、機関砲の射角を広げる。

 脚を止めたザノンとアッシュを
今度は、建物の隙間から重武装を施した
フラ・ベルジャとクリスナのアサルトライフルや機関砲が狙う。
マジックミサイルの着弾の始末を確認するとザノンはバッソウTSの機関砲を肩部後方に跳ね上げて、
刀とアサルトライフルを抜く。

 「…計算終わり!防御魔法の為のゲインは上昇しきった、
有効範囲及び出力をチャー・シュー・メンで眼一杯広げる、
…効果範囲は、大体半径50a!地形図参照のこと!
魔法の最大出力、効果範囲に達する五秒の間にアドバンテージを掴んで、打って出るなら打って出ろ!」

 リブラのバッソウRBが大盾の縁で石畳を叩き割り
大盾をそこに突き立てると、大盾が吼えるが如く唸り、光を放つ。

 大盾の魔装の放つ光が線となって瓦礫で凹凸だらけになった地表を放射状に走る。

 「チャー」

 「三秒でいい!」

 バッソウTSが刀をブンと払い、影よりも早く左弦に向かって跳ぶ。

 「シュー」

 「二秒だ!」

 アッシュも同じように、バッソウGFに短剣とアサルトライフルを構えさせ、
バッソウは右弦に向かって地を這うように走る。

 「ミェン!」

 「噛んだぞ、厨二病!欲の皮を展開!」

 光芒が大盾を中心に発し、
フンと笑い声を空中に残して、光芒を背負うリオーネのダィンスレーが
正面を睨み、ザノン・アッシュのバッソウを遥かに凌ぐ高速で低空を飛翔する。

 同じく光芒を背負って走るザノンのバッソウの眼前、遮蔽物となった
瓦礫を利用して姿勢を低くして姿を隠すクリスナの背後から
ズルリと赤いレクイエンHldrの巨体が立ち上がって魔剣銃を両手持ち、上段に構える。

 「ち、いかついのがそっちにいたか!」

 リオーネは舌打ちを鳴らすがやむを得ず低空飛行で高速前進しながら
四門の機関砲を全て前面に展開して、闇雲に正面を撃つ。

地上制圧用の本懐を見せるライトニング号の見せる火力たるや凄まじい。
正面を塞ぐ瓦礫は吹き飛び駆け抜ける死の嵐は煙と火花を巻き上げ
耐え切れないクリスナは引き裂かれ、煙からクリスナの四肢や破片が弧を描いて飛び散る。

 「打撃屋の、本職と打ち合えるだけの腕力は…!」

 比較すれば、バッソウは、レクイエンよりも非力だ。

 振り下ろす魔剣銃と、バッソウTSの上段へ払う刀が火花散らして発止とぶつかる。

 膂力に違いが有る上、引く事の叶わぬ間合いに入ったため
相手の上段から打ち落とす剣を真正面から受けるを得なかったバッソウTSは
膂力で押し負け、
手にした刀は、レクイエンの魔剣銃に絡め取られて、
弾き飛ばされる。

 バッソウTSはそれを予見して後方に跳び、
振り下ろす斬撃そのものを騎体に受けることを免れるが
剣の一撃を凌いだ反動で姿勢をやや崩しており、
着地した際に騎体を一歩左に流してたたらを踏む。

 そこを捉えようと構え、タイミングを計っていたクリスナが
アサルトライフルを撃つが
ザノンは構わずに左手のアサルトライフルをバッソウTSに撃たせる。

 クリスナのアサルトライフルの弾丸は、バッソウTSを捉えたものの
大盾から拡散してザノンのバッソウTSの背中を追いかけ、
追いついた光芒、防御魔法の衝撃緩和の効果に拠って効果を減殺され
バッソウの装甲から火花を散らせるもののそれのみで弾き飛ばされる。

 銃口が向いたのを察知したレクイエンは振り下ろし、
地面を舐めた刀身を引き上げずに刀身からエネルギーを放出し、
それによってレクイエンの足元の石畳が、炸裂し、破片が前面へと飛散する。

 爆風の衝撃派を相殺しきれずにザノンの騎体はバランスを崩し、後方に吹き飛ぶ。

TSの貧弱な装甲の防御魔装が、急激に、精一杯の魔法を出力する、キュウー…ンという妙に高い音を上げる。
ザノンはそれに冷や汗を浮かべ、後方に吹き飛ばされるTSのフレームの伝達する出力を絞り、四肢に分配しつつ
三次元戦闘モードで低空高速前進をさせる挙動を応用し
騎体の吹き飛ばされる運動にブレーキを掛け、
間合いを開きつつもその反動で右手の機関砲を引き上げる。

 「ほう、こやつ!」

 傷の騎士団、
レクイエンのパイロット、ポイゾ・シーが舌を巻いて剣を逆手に引き上げ
長大な剣のエネルギーを迸らせて騎体を守る。
あわやというタイミングで走った機関砲の弾が蒸発して融けうせる。

 クリスナ、フラベルジャを巻き込もうとザノンは
騎体を旋回させる構えをバッソウの脚に一瞬見せるが、
彼は連射を辞めてそのまま機関砲の砲身を払い、右手で今度は太刀を抜く。
防御魔法の有効範囲とイコールに近い光芒が収束し、退いていく。

 ざんッと石塊を蹴って、左右からクリスナとフラ・ベルジャが飛び出してバッソウTSに迫る。
下がる以外の退路を封じられ、
正面からはエナジーボルトの強力なレクイエンが剣を右八双に構え、突っ込んでくる。

 「オイ、棒立ち!」

 一ト突きでクリスナを仕留め、
アサルトライフルを撃ちながら足場を作った
尖った叫びを上げるアッシュのバッソウGFが後ろからザノンを支援しようと旋回する。
リブラとネルもそれに習い機関砲をそちらに向けようとするが
バッソウTSの背中に眼でもついているのか
ザノンは振り向きもせずに待てよと大喝して
バッソウTSは太刀を片手下段に構える。

 薙ぎ、払い、掛け、突く、また掛ける。
…危ういながらも、バッソウは何とかレクイエンの連撃を刀で凌ぐ。
しかし、レクイエンの鋭い太刀筋を太刀で受け、じりじりと下がる
バッソウTSはやはり、正面からの切りあいでは相当に分が悪いように見える。

 「白いの、やるようだ!剣術を知っているな!」

 頭の片隅で、何かが焼ける様な、ジリという音がするのを、ザノンは捉える。
 戦場に立つ意識、感覚の緊張、練磨が
彼の血の中で変化を起こしつつある魔装の活動を活発化させ
急速に感覚を開かせてそこに有るはずの無いものを。
彼の最初の願いに従うため、
彼を呼ぶ、ある命を宿さぬものの記憶と意思らしきものを
感覚に聞かせる。

 「…アイギス?
不甲斐ない戦い方を、怒っているのか…
どこから僕を呼んでいるんだ…!」

 ザノンは、あの日、アイギスの中で感じた意思の湧き出る音をバッソウの胎内で再び感じ取る。
言葉ならぬ、アイギスの呼び声に導かれ、
過去の彼であれば守れなかったであろう命が今、
戦場に吹く剣風、爆風の嵐に晒されているのを
バッソウTSの中のザノンは感じ取る。
自らの誓いの為に乗り越えるべき試練がそこにはあった。
願いを嘘にしない為に、力で切り開いて事実を作る答えに彼は辿り付く。
守るべきものは今は、手を伸ばせる距離にあり、手は確かに届くという確信が彼の胸中に灯る。

 リブラが、コンソールの上に表示されている情報の詳細な内容に眼を見開く。
パイロットと魔装鎧の間で感覚補助や
操作、反応が正常に行われている事を示す
バッソウTSの反応値が
ゼロに近い数値を示している事に
いち早く気付いたリブラが呼び声を上げようとした時

バッソウのザノンは叫ぶ。

 「節穴ども、どいつも、
こっちを撃つンじゃねエ!
機関砲はまずい!こいつは僕がやるッ!」

 バッソウTSは表示が誤りであると思わせる機敏さを見せ
継ぎ脚で左手に一気に踏み出し
高速旋回しながらクリスナの眼前に飛び込み
バッソウの見た目から
その瞬発力を侮って迂闊に間合いを詰め過ぎた
クリスナの胴を一息に撫で斬って、フレームまでを火花迸らせながら両断する。

 「アナタねえ、ちょっと口が悪いよ!そんな子の言う事!」

 その場所を狙って、レクイエンの長大な物干し竿が突きの挙動で鋭く伸びる。
刺撃一閃、ジャアンとざらつく音が駆け抜け、刺撃を皮一枚でかわす
バッソウTSの背負った
右肩の機関砲が砲身を容易く両断されて落ちる。

 落ちる時にはもう既にレクイエンは剣を引き、バッソウが跳び退く為に脚を浮かせる所を打つ狙いか、
立ち位置を僅かに微調整し、物干し竿をグイと腰溜めに構え、準備動作を済ませていた。

 その動きの周到さ、機能美には物干し竿の重さも、巨体の鈍重も
小兵の敵を侮る驕りも欠片ほども見えない。

 「この突きの迅さ、重さ…
旭陽弥幡の剣術、典念理神流辺りを使うヤツか!
レクイエンに向いている騎士が、いる!」

 剣風を肌で感じるよりも鋭敏に感じ取ると
肌を粟立たせ、口元を笑う様に引きつらせるザノンの目元をゴーグルは隠す。

 その面に現れているのは恐怖か愉悦か、他人には測りかねよう。

 「ちょっと…もう、撃つからねッ!」

 ザノンの不利に痺れを切らせたネルは構えた機関砲の砲身をガチリと揺らすが、
どうした事か、落ちる機関砲の砲身を追って
バッソウTSは右手を伸ばし、旋回しながら小さく跳躍し、
刀を持った右手で機関砲の砲身を抱えると
三次元戦闘モードの機体制御を利用し、
砲身の重量も利用して低空で機体を斜メに一回転させ、
レクイエンの長剣を潜り抜けながら
蹴りの一撃を放つ。
未だに相手を接近戦でしとめるつもりである。

 レクイエンは上体をそらしてこれをかわすが
ぐるりと廻ったバッソウの蹴り脚が地面につくや否や、
上体を下げつつ、直前まで軸足だった足から後ろ回し蹴りを繰り出し
蹴り足がレクイエンの長剣を握った拳を掠める。

 結果レクイエンの剣は泳いで、剣を引き戻す動作にズレが生じる。
そこを狙うバッソウTSはもう一回転して
渾身の足払いを上段から下段に向けて振り下ろす。足払いはレクイエンの脛の装甲を捉え、
装甲がガァンと鳴いて大きく凹む。

 「なんだ、あの動き!
あんな機動のさせ方、知らないぞ。
あいつ、三次元戦闘モードを完全にものにしているのか!?!

 その自由な動きは決まった型を人に教えられて
身に着ける修練だけから発したものではない。
ザノンは、クロウスやグレンの教えに拠って自分の発想で
制御をデザインする事が出来る、
瞬間で新しい技術を編み出す程の
技量を身に着けていた。

 アッシュが、融通無碍と言えるザノンの騎体制御の技を見て肝を潰す。

 「打たせてやったのサ!
貴様の脚は傷ついたなぁ、
鋭くはあるが、
非力故に肉を切っても骨を、絶たれる!!」

 バランスを崩して、レクイエンは騎体を更に泳がせるが
いかにも壮年の男と云った様相のポイゾの精気漲る貌には余裕が漂っている。

 ポイゾが眼を留めたように、体格に劣るバッソウTSの脚は、蹴りの勢いと
レクイエンの厚い装甲によって
相手よりも却って重大なダメージを負い、装甲を大きく凹ませる。

 脚のダメージから、着地の体勢を崩したバッソウTSは奇妙に身体を捻って
無理に方向を変え、結果相手の剣の届く間合いで左腕から着地する。

 ネルのバッソウがいよいよ以って見切りをつけて機関砲を撃とうと肩肘を張る。

 「ッの、パープリン!止めろと言ってンだろう、女ァッ!」

 それでも、ザノンは味方の支援を制する。
ザノンらしからぬ感情の怒涛をそのままぶつける声に
ネルも逆波を胸中に立て、ザノンに右手を塞ぐのは考えなしと
悪態を付きながら肩部ジョイントアーム、
並びに機関砲と連動するレバーのトリガーに指を掛けるが
フラ・ベルジャの前に
影を滑り込ませたリオーネのダィンスレーの背中にその弾丸軌道を塞がれ、
撃つのを踏みとどまる。

 「撃つのは待った!」

 「何でなんです!?」

 「TSの左舷背面にィィアオルラックワァッシャアア!」

 拳の部分のナックルガードを下ろしたダィンスレーはフラ・ベルジャに
高速で突っ込む勢いのまま、リオーネは言葉を切ってやたらとやかましい気合に繋ぐ。
電光石火、ダィンスレーは左右の拳のコンビネーションをフラ・ベルジャに空中で叩き込み
もう一度左右の拳を見舞ってから、
ぐるりと縦に廻って胴廻し蹴りの要領で
フラ・ベルジャの脳天にダィンスレーの踵を叩き落とす。
拳撃と蹴りで装甲を無残に凹まされたフラ・ベルジャの装甲がビィンと音を立てて震え
突き抜ける衝撃はジェネレータにさえ影響を及ぼしたのか、
フラ・ベルジャのジェネレータの音がゴオンという異質な音に変わる。

止めとばかりにダィンスレーは横に一度廻り、回し蹴りでフラベルジャを打ち据えて弾き飛ばすと、
瞬時に向きを変えてレクイエンに殺到する。

 「ち、厄介なのがもう一匹か、こやつを仕留めたら相手をしてやるわい!」

 しかし、その動きを捉え、予見していたポイゾは
ダィンスレーの出力を以ってしても慣性を殺し切る事が
出来ぬのをフラ・ベルジャへの攻撃の後の制動距離、方向転換のスピードと挙動で見切り
僅かに騎体の立ち位置をずらしてその突進をやり過ごし、
空中で背中を打たれることを恐れる事から
挙動にブレーキを掛けたダィンスレーの胴を魔剣銃の鎬で捉え、横合いに殴り飛ばす。

 「チィェアルアッシャァッオウフ!」

 打たれたその勢いを流して、旋回しようとしたダィンスレーの背面装甲が、
クリスナと衝突してダィンスレーの胎内のリオーネの気合はダィンスレーの転倒に驚嘆する悲鳴に変わっていた。

 一瞬で間合いを詰めてきたダィンスレーの加勢と、
その凄まじく派手な挙動、気迫に一瞬視線と手を持って行かれたポイゾの肩は力み
バッソウTSに手首を向けて機関銃で止めを刺そうとするが
バッソウは転倒したまま抱えていた機関砲の砲身を転がすように手放し
右手で太刀を地面に突き立てて渾身の力を込める。
石畳が砕ける粉塵がもうと巻き上がるが、
バッソウTSの騎体は太刀の柄を掴んだまま片手で
倒立するようにその弾道から逃れ、
三次元戦闘モードの加速による反発と反動の勢いを借りて跳躍している。

 逆さになったザノンのバッソウTSが、空中でアサルトライフルの銃口をレクイエンに向け
レクイエンの右肩に弾丸の雨を叩き込む。

 「一瞬を、盗られた…か…!?」

 レクイエンの右腕がワァンと音を立てて震え、
機関銃を内蔵した腕が空中を泳ぐ。
レクイエンは左手一本で迎撃の剣を突き上げるが、
腕一本で真上に向ける取り回しの遅い長大な剣は
バッソウTSの頭部を掠るのみでかわされて、
代わりにザノンは空中からの刺撃を
レクイエンの腹部に見舞う。

 コクピットハッチで遮られて聞こえぬ筈の
ポイゾの天晴也という叫びがザノンの耳を貫いた。

 着地すると、脚にダメージを残したバッソウTSは四分の一ほど旋回してから
ふらりと体を揺らめかせて膝をつく。
ザノンはコクピットハッチを展開して、
ゴーグルとコクピット周りを有線で繋ぐワイヤーコードを引き抜くと
ゴーグルをしたままがばと身を乗り出す。

 風が出て、瓦礫から出た粉塵が舞い上がる。
その埃はザノンの姿をその場に居るものの眼から一瞬隠す、

 「何なんだ、むちゃくちゃなこの始末!
自己顕示のスタンド・プレー?
そういうのとは、無縁なはずだろ、お前は!
剣で戦う理由も!
そこは、ちゃんと説明したっていいだろう!」

 苛立ったアッシュのバッソウGFが、ザノンのTSに詰め寄って説明を求めると
ザノンは無言で左手の方角を顎で示してから口を開く。

 「…そんなヤツかどうか。
君が僕の何を知っている。
スタンド・プレーの接近戦が最も合理的な選択だった。
ベストな手段ではないかもしれないが、
ワーストの選択を迂回する確信があったから、な 君の知ってる僕のイメージを守って戦っていたら
僕は簡単にワーストの結果に突っ込んでしまう」

 バッソウのコクピットハッチの縁を掴んで身を乗り出し、
背中を丸めて右ひざの上に左の肘を乗せ、バッソウの中心に居座るザノンのゴーグルが
薄闇の中の僅かな光を拾って
光が反射する。

 その光と声、肩で息をする不自然に疲弊しきった姿は、
ザノンらしからぬ尖ったものの影を見せて、見る者の心を刺した。

 「…変、だぞ、お前…」

 アッシュは、やっとの事でベディヴィアとの決闘以来胸に詰まっていた
言葉を重い呟きにしてザノンに落とした。

 落として、アッシュはザノンの呼吸が奇妙に乱れている事に気付き、
それを指摘しようとするが
 「アッシュ、ネル。あそこ、人がいる。
リオーネ卿とザノンは人を避けたんだ」

 というリブラの憮然とした声にそれを阻まれて、
ネルとアッシュはエッという驚きの声を同時に上げる。

リブラは、それを裏付けるようにバッソウRBに大盾を掴んで引き抜かせ、
ザノンが顎で示した方向に視線を送る。

 見れば、崩れ、折り重なる瓦礫と瓦礫の間に偶然出来たらしき狭い隙間に
商人らしき老夫婦が背中を丸めて身体を寄せ合い、祈るように手を組んで
戦闘の残響、収まらぬ震えを殺している姿があった。

 「機関砲は撃てない状況だった、 それは判った。
だったら、何で、それをちゃんと説明しないのさ…」

 ネルが、落胆を声に見せてザノンに訊く。
答えは半分、判っていた。
自分ひとりで始末をつけようとしたザノンの行動は
僚友としての自分達が
信頼に値しないと考えている事の証明に他ならない。

 「…説明、説明、また説明か、…全く!」

 荒い呼吸で、しかし、
苛立つ声の色を隠そうともしないでザノンがゴーグルの位置を直す。
市内侵入に成功し、制圧の足場を作った今
その眼の色を見せる必要もないが
見せない必要もない。
あくまで彼は、彼の眼の色を見せるのを拒んでいるとネルは感じた。

 「ここは障害物が多い。
慌てて接近されて、バッソウが機動できるスペースを減らされると困る。
レクイエンの騎士は相当な使い手だった、
他人の面倒を見て、判るように教えてやっていて、
片手間に勝てる相手じゃあなかった」

 「お前さ…その言い方」

 アッシュが、怒りか落胆か、失望の混じった声を抑えながらザノンに質問を投げる。

 「俺達…僚友を、役立たずと決めてかかっているのか?」

 ザノンは、アイギスの胎内で得た誓いを、アイギスからの呼び声、
己の内から発した囁きの中で眼を背けてしまっていた。
その意識の辿る視線の不自然さは姿勢に現れ、彼の事を知る僚友たちにも、その様に写る。
 ザノンの内でザノンは、彼自身の声とせめぎ合っている。
アイギスの中で、エクスや、級友達の声で
助けられたあの時のザノンは今の彼に取っても嘘ではない。
しかし、他者に助けられる事を勘定に入れられない彼も、本当の彼だ。

 アッシュの言葉が終わらない内に、丸めたザノンの背中に何か硬い気配が駆け抜け
ゴブッという湿った音が響く。

 バッソウTSが展開したコクピットハッチから、
バッソウの足元の無残に砕けた石畳に褐色の物が滴り落ちる。
ザノンが、胃の中の物を戻したのだ。

 己の吐しゃ物で二三度むせるザノンのバッソウに、
アッシュがバッソウで歩み寄ろうとするが
ザノンは貌を上げてゴーグルで隠れた視線でアッシュを刺して
立ち入りを拒み、凄絶な宣告をぼろぼろと漏らす。

 「僕の好きな友達でも、誰でも。
僕は、だれも、あてにしてはいない。
あてにする、道具にするのは、マシーンだ。
決して失われない、総量と効果が
約束されたマシーンの力で、
泣いているひとや、友達の絆を繋げる。
いつか、幸せな明日で、繋がった絆で
昨日泣いたことを人が忘れられるように。
そして、僕は、忘れられたい」
 死神に魅入られたザノンは、高揚しているかのように早口に言葉を続けた。
あるいは彼が見入られたのは、兵器の分厚い装甲の冷たさなのかもしれない。

 「僕は、君達の絆を断ち切る死を遮断し、繋げる盾になる。
妹を失った失敗を、僕は、命の続く限り、取り戻し続けなきゃいけない。
必要なのは僕の暴力で守れる人数の計算と、
ルサンチマンを僕がどれだけ殺せるかの計算だけだ。
僕は、自分の残せる、確実な結果しか愛さない。
一番大切な人間を死なせた人間には、
それしか価値の残骸は残っていない」

 凄絶な言葉は、一方的に自分達を守る事を宣告する。
その凄絶な、ザノンの露出した胸中の虚無に、
屈折してしまった高潔さに。
発芽しつつある盾の恐るべき才能と、明王の気配に。
それを普段全く見せてこなかった彼の真意にショックを受けた
ネルの瞳が、赤い水面になって揺らめく。
彼女の瞳の揺らめきも
バッソウのコクピットハッチに隠れて、誰にも見えはしない。

 ザノンの声に。幻の視線に。アイギスの声に縛られつつある彼の凄絶な姿に
その時、誰も、口を聞けるものはいなかった。

ザノン自身は、しかし、その時心の中で
エクスやグレンがこの、偏り始めた自分の事を止める為に
姿を現してくれるのではのではないかと
相反する期待を抱く自分を見つけていた。